2010.12.30
宮本輝先生の「骸骨ビルの庭」をやっと読める。年末にと取っておいたのだ! 人間を深く知っている著者の力わざで、こんな突飛な設定でも決してものごとが理想化されていないので、小説ではなく単なる実話ルポなのでは?と思うくらいのリアルさだった。でもそこはやっぱり輝先生の主人公。なんとなく上品で、ほのぼのしていて、やることをこつこつやって、ちょっと抜けてて、あやまるべきときは素直にあやまり、いつのまにかみんなが心を開いてしまう感じに、安心して入り込むことができた。 そしてもう一方の、亡くなっている影の主人公は昭和のおじさんならではの、なにがあってもやせ我慢をするしやると決めたことはやるという人で、その人の気配が作品全体を静かに覆っている。その面影の中で主人公は安心しておいしいコーヒーを飲み、オムレツを焼き、庭をたがやしている。それだけで会社勤めの男の人がどういう暮らしをしたいのか、痛いほど伝わってくる。別に逸脱したいわけではなく、世界を自由に見たいという気持ち。 いい人がいいだけではなく、悪い人は悪いままで、ずるい人でも死なないでほしいとみんなが思い、そうそうこのバランスが人間だなあと思いながらも、私もまた安心して輝先生の技の中で心を自由にした。
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